変じゃないブログ

なんかいろいろ。へんしゅうぎょう。ツイッターは@henjanaimon

パンツ(排泄物)売りの少女だった頃の話❸

意外かもしれないが、排泄物はパンツより高価な値段で取引されていた。おそらく、需要に対して供給が少ないから、取引値が跳ね上がっていたんだろう。「需要と供給と売価のバランス」を、私はウンコで学んだ。「そんなことあるんだ」って感じではあるが、やはり座学だけでは知識は身につかない。それはJKビジネスの世界でも同じだった。

私がほかのJKたちの書き込みの見様見真似で設定した、なかなかの高額でも交渉に応じてくれた男性は、おそらく普通のサラリーマンだ。まとまった額のお金を、月に何度も自由にできる環境下にはいなかったのだろう。

はじめての待ち合わせの日、男性が手にしていたお弁当入れらしい手作りの巾着は、ファンシーな車のイラストが描かれていた。おそらく、奥さんが息子の分を作るついでに彼にも作ってあげたのだろう。「こんなの会社に持っていけねーよ」と文句を言うことなく、それを日常使いしてあげる旦那。とてもいい旦那ではないか。ただ彼は退勤後、JKからウンコを買い、深夜風呂場でウンコとセックスしていた。しかもその感想を、情緒たっぷりにまとめ、17歳の女に送りつけていた。

「人間の闇」といっても差し支えないな、と私は感じていた。

彼からの「買いたいのですが」メールはだいたい月に1〜2回、送られてきた。その都度、私は待ち合わせに出向き、ブツ(何回もいうが、ウンコ)を渡した。そして決まって深夜には夢小説が届く。最後の方は、ヒートアップが過ぎて文学性が増していたのが面白かった。あの時の文面を、なぜ残しておかなかったのだろうかと悔やまれる。歴史的な文学小説も確かに素晴らしいが、今を生きている人間の、脂ぎったきらめきには勝てない。今の私には素直にそう思えるが、JKの私には「メールが届く瞬間」がなかなかの苦痛に変わっていった。どれだけ文面を無視して温度の低いお礼メールを返しても、ドギツい夢小説は取引の日以外も送られてくるようになった。「そろそろ限界かも」と思っていた頃、彼からあるメールが届いた。

「妻に全部バレました。もう買えません」お前、いつもの夢小説テンションはどうした?というぐらい、簡素なメールだった。

いや、「全部」ってなんだよ。JKからウンコを買ってたことか。それとも風呂場でそれを(たぶん)自分の身体に塗りたぐって射精してたことか、はたまたその射精の感想を小説仕立てにし、レビューを製造者の元に送っていたことまでか。訳がわからなかった。さらに訳がわからなかったのは3ヶ月後「もう大丈夫だと思うので、また買いたいのですが」と連絡してきたことだ。いや、たぶん大丈夫じゃねえよ。離婚されてないだけでも奇跡なのに、なにが「もう大丈夫」なんだよ。奥さんもヤバいのか。ならあなたとお揃い(たぶん)の弁当袋を所持する息子はどうなるの。うんこって断てないものなの。「禁煙、また失敗したー」みたいな感覚なの。

何から何まで訳がわからず怖かったので、その男性とはそこで縁を切ることにした。

 

売買掲示板にはいろんな人がいた。同じく排泄物を求める男性から「ニラを食べた後のウンコを売って欲しい」と依頼され、「学生なので献立は親が決めます。ごめんなさい」と返したら「じゃ、コーンは?」と聞かれたこともある。「じゃ」じゃないから。「コーンならいけます!」ってなる道理、ある?

他には、コピー機で印刷した偽札を渡してくる人もいた。当然腹は立ったが、JKのパンツを買うためにコンビニだか家だかのコピー機で、お札を印刷するおじさんのすがたを思うと、急速に悲しい気持ちになり、許した。「世界は、誰かの仕事で出来ている」缶コーヒーBOSSのキャッチコピーだ。そのおじさんは、きっとどこかでは真面目に働きお金を得て家族を養い、世界を構築しているんだろう。JKのパンツを買うために、偽札を印刷しながら。

 

好きな常連さんも、何人かいた。一人目は「オナ済2日履き」常連のAさん。Aさんは背こそ低かったものの、清潔感に溢れ、顔も悪くない感じのサラリーマンだった。とにかく取引がスマートで、お金に余裕があるのか、高頻度で売買してくれた。当時私は「かっこいい大人だな」と思っていたが、よく考えるとどう転んでもかっこよくはない。オナ済2日履きだぞ。

二人目はおしっこ&オナ済パンツのJKハッピーセットご指名のBさん。この人はとにかく、容姿を褒めてくれた。「今日もかわいいね!」「ほんとはキャバ嬢なんじゃないの?ウソ、ほんとにJKなの?キャバ嬢になったら絶対ナンバーワンになれるよー!」あまり往来で言葉を交わすのは危険だから避けて欲しかったが、褒めてくれるのが嬉しくて、Bさんとは比較的よく会話をした。この時言われた言葉と、「丁寧なメールはおじさんの心に作用する。そして私はそのスキルを売買で培った」という自信を胸に、2年後私はキャバ嬢になり、東京の片田舎でお店のナンバーワンではないもののナンバー2になるのだけど、脱線するので割愛する。

「スキルを次の職場で生かす」なんてことは、今の私には出来ない。数少ない友達に「いいなーおじさん紹介してよ」といわれたときも、「おじさんたちは私のパンツ(排泄物)や、日々のメールを信用して取引に応じてくれてる。クオリティを下げるわけにはいかないから、申し訳ないけど分業はできない」と断っていた。あの頃の方がよほどビジネスパーソンだったな…と思う。

このBさんに「◯◯ちゃんのおしっこ、甘いんだけどジュース混ぜた?」と聞かれ、若年性糖尿病を恐れた検査に行ったが、陰性だった。おそらく彼の中で、「JKのおしっこ」は甘美なものだったから、味覚が錯覚を起こしたんだろう。あれ、ただのおしっこでしたよ。

3人目は、オナ済パンツや通常パンツ(1日履き)常連のCさん。Cさんはメガネをかけたとにかく普通の若いサラリーマンといった風貌だったが、会っているときの態度とメールのテンションに大きな隔たりがあった。分かりやすくいうと、多分鬱病だったと思う。

「彼氏と彼女」はつまり、お互いを大切な存在だと認識している人間関係だ。その観点からみたら、私とCさんはあのとき間違いなく「彼氏と彼女」だった。もちろん、私とCさんは売買の日以外に会ったことはなかったし、セックスはおろか、最後まで手を繋いだこともなかった。何度も取引に応じてくれていたけれど、実際に会話を交わした時間はトータル1時間にも満たなかったと思う。

 

でも、はじめて会った日から1年後、私はこのCさんから大きな愛をいただくことになったのである。